【季語ノート番外編】皐月だけじゃない!?五月を表す呼び名8選+おまけ2語

五月

はじめに

五月といえば「皐月」が有名ですが、季語辞典や歳時記を眺めていると、ほかにもいろいろな呼び名が出てきます。

星、植物、天候など、呼び名のもとになるものもさまざまです。
季語辞典を読んでいると、いろいろな例えがあることに驚かされます。

この番外編では、現代の五月を眺めるための言葉として、五月の呼び名を集めていきます。
道端の鳩、雨上がりの植え込み、風に揺れる若葉。
そんな景色と結びついたとき、古い呼び名も句の種になるかもしれません。

旧暦・陰暦の話はここでは深追いしません。

ここでは旧暦・陰暦の細かな話はいったん横に置きます。
「陰暦では何月で、今の暦ではいつごろで……」と考え始めると、一句作る前に頭がこんがらがってしまうからです。

たとえば「皐月」も、もともとは旧暦に由来する呼び名です。
厳密にたどると現在の季節感とは少しずれる部分もありますが、今では五月の呼び名として広く親しまれています。

この番外編では、そうした暦の細かな違いには深入りせず、現代の五月を眺めるための言葉として紹介していきます。
わかりやすく、意味を初見で想像しやすそうなものを選んで、10語集めてみました。
まずは言葉に触れてみることから始めましょう。

五月は夏の始まりって本当?

五月を表す呼び名を見ていると、「初夏」「立夏」「夏初月」「孟夏」のように、夏を思わせる言葉がいくつも出てきます。

ただ、今の感覚では、5月はまだ春の終わりという印象もあります。気象庁の区分でも、春は3月から5月、夏は6月から8月とされています。

一方で、二十四節気では五月ごろに「立夏」や「小満」があります。国立天文台の暦でも、2026年は5月5日が立夏、5月21日が小満です。

つまり、ここでいう「夏」は、真夏の暑さというより、春から夏へ移りはじめる入口のようなものです。

この番外編では、五月を「夏そのもの」と決めつけるのではなく、春の名残と夏の気配が混ざる時期として眺めていきます。道端の鳩さんも、日なたでは少し暑そうにしながら、木陰ではまだ春の顔をしているかもしれません。

5月を表す言葉8選

卯の花月(うのはなづき)

白い花、初夏の入口

「卯の花月」は、卯の花が咲くころの月を表す呼び名です。
卯の花であるウツギは、現代の季節感では5月から6月ごろに花を咲かせるため、五月を眺める言葉としても使いやすい呼び名です。

白い小さな花が枝に集まって咲く姿から、初夏の明るさや、春から夏へ移っていく空気を感じさせます。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

花残月(はなのこりづき)

春の名残、やわらかい余韻

「花残月」は、春の花がまだ少し残っているころを思わせる呼び名です。

花の盛りは過ぎても、枝先や道端に、まだ消えきらない春の色が残っている。
そんな景色を思うと、4月末から5月上旬ごろの、春と初夏の境目が浮かびます。

とくに桜は、地域によって咲く時期に差があります。
南のほうでは散ったあとでも、北の地域ではまだ花を楽しめることがあります。
そのため「花残月」は、五月を眺める言葉として使うなら、春が終わったあとの名残を拾う呼び名として考えるとよさそうです。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

木葉採月(このはとりづき)

葉、桑、暮らしの気配

「木葉採月」は、桑の葉を採る月という意味を持つ呼び名です。

ここでいう木の葉は、蚕に食べさせるための桑の葉のこと。
養蚕が身近だった時代には、桑の葉を摘み、蚕を育てることも季節の大事な仕事でした。

花の名前ではなく、暮らしの中の作業から生まれた呼び名。
そう思うと「木葉採月」には、若葉の明るさだけでなく、人の手が動きはじめる初夏の気配があります。

現代の五月に重ねるなら、道端や公園の木々が濃くなり、葉の影が少しずつ増えていくころ。
花を眺める月から、葉の力を感じる月へ。
「木葉採月」は、そんな季節の移り変わりを思わせる言葉です。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

初夏(しょか)

五月の空気感

「初夏」は、夏のはじまりを表す言葉です。

ただし、ここでいう夏は、真夏の強い暑さではありません。
日差しが少し明るくなり、風の中にあたたかさが混じりはじめるころ。

春のやわらかさはまだ残っているけれど、木々の緑は濃くなり、空も少し高く見えてくる。
「初夏」には、そんな季節の切り替わりの気配があります。

五月を眺める言葉として使うなら、「春が終わった」というより、夏の気配が少しずつ近づいてくる時期として考えるとよさそうです。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

夏初月(なつはづき)

五月という月そのもの

「夏初月」は、文字どおり、夏の初めの月を表す呼び名です。

「初夏」が季節の気配を表す言葉だとすれば、「夏初月」は月そのものに名前をつけたような言葉です。

現代の五月に重ねるなら、真夏の暑さではなく、日差しや緑の色に少しずつ夏が混じりはじめるころ。春の続きに立ちながら、夏の入口を見ているような呼び名です。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

立夏(りっか)

五月上旬|夏の気配が立ち上がる入口

「立夏」は、5月上旬ごろにやってくる、夏の始まりを表す言葉です。

まだ真夏の暑さではありません。
けれど、春の花が落ち着き、日差しの明るさや若葉の色に、少しずつ次の季節が混じりはじめます。

「初夏」が五月全体の空気感を表す言葉だとすれば、「立夏」はその入口に立つような言葉です。

春から夏へ。
景色の中で、季節が一歩だけ前へ進むころ。
「立夏」は、そんな五月上旬の変化を思わせる呼び名です。

国立天文台の2026年暦要項では、5月5日が立夏です。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

小満(しょうまん)

五月下旬|緑や命が満ちてくる入口

「小満」は、5月下旬ごろにやってくる、草木や命の勢いが増していく時期を表す言葉です。

春に芽吹いた草木は、少しずつ葉を広げ、景色の緑も濃くなっていきます。
花の明るさよりも、葉の厚みや、木陰の深さが目に入りはじめるころです。

「立夏」が、夏の気配が立ち上がる入口だとすれば、
「小満」は、その気配が少しずつ景色の中に満ちてくるころ。

道端の草、木々の葉、湿った空気の中に、季節が育っていく感じがあります。

五月を眺める言葉として使うなら、春から夏へ進む力が、景色の中に満ちはじめる時期として考えるとよさそうです。

※国立天文台の2026年暦要項では、小満は5月21日です。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

孟夏(もうか)

漢語寄りの「夏のはじめ」

「孟」には、はじめという意味があります。
そのため「孟夏」は、文字どおり、夏の最初のころを表す言葉です。

「初夏」と近い意味を持っていますが、「孟夏」のほうが少し漢語寄りで、古風な響きがあります。
やわらかく季節を感じるというより、季節をきちんと名前で区切るような印象です。

五月を眺める言葉として使うなら、春から夏へ移る時期を、少し改まった言い方でとらえる呼び名として考えるとよさそうです。

春の余韻がありながら、夏の名がすっと立ち上がる。
「孟夏」は、そんな五月の入口を、漢字二文字で引き締めてくれる言葉です。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

そんなのあり!? 初見だとわからない五月を表す言葉2選

綿貫(わたぬき)

月名ではないけれど、衣替えの気配がある言葉

「綿貫」は、旧暦4月1日(4月下旬〜5月上旬)の衣替えに関わる言葉です。

昔は寒い時期に、綿を入れた着物を着ていました。
それを春から夏へ向かうころに、綿入れから綿を抜いたり、軽い袷(あわせ)へと替えたりしていたといわれています。

その「綿を抜く」という習慣と結びついているのが、「綿貫」という言葉です。
名字としても見かける言葉ですが、もともとの意味を知ると、季節の変わり目にかなり近いところにある言葉だとわかります。

五月を表す呼び名そのものではありません。
けれど、厚い衣から軽い衣へ移っていく感じは、春から夏へ向かう五月の空気とよく合います。

なお、平安時代の宮中では、季節に合わせて衣服や室内の調度を替える「更衣」が行われていました。
下の挿絵は、「綿貫」そのものの史実再現ではなく、春から夏へ装いが替わる空気を、平安風の更衣イメージとして描いたものです。

下の挿絵は、春から夏へ装いが替わる空気を描いたイメージです。史実をそのまま再現したものではありません。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

吹雪月(ふぶきづき)

雪ではなく、白い卯の花の吹雪

「吹雪月」は、卯の花の白さを吹雪に見立てた呼び名です。

吹雪と聞くと、冬の雪を思い浮かべるかもしれません。
けれど、ここでいう吹雪は、雪ではなく、白い卯の花の景色です。

5月〜6月に白い小さな花が枝いっぱいに咲き、風に揺れる姿を、雪が舞うような景色として見た言葉だと考えると、「吹雪月」という名前にも納得できます。

五月を表す言葉として見ると、少し不思議です。
夏の入口なのに、吹雪。
そのずれが面白く、今回の番外編の「そんなのあり!?」枠にぴったりです。

画像:羽鳥三郎@はとのことのは監修/DALL·E生成

参考文献・参考資料

書籍

  • 川口妙子『クリエイターのための 和の幻想ネーミング辞典 季節のことば編』新紀元社

Web資料

※旧暦四月に由来する呼び名も含むため、4月の異称に関する資料も参考にしています。

  • 国立天文台「令和8年(2026)暦要項」
  • 国立国会図書館「日本の暦|和風月名」
  • 宮内庁 京都御所「京都御所の年中行事『更衣(ころもがえ)』とは?」
  • ウェザーニュース「『卯月』以外にもいろいろ 季節を感じる4月の呼称」

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